管理職の面談はなぜ部下のやる気を下げるのか——時間がない中で何を残すか
この記事で扱うのは、課長・店長など部下を持つ管理職が、その部下と行う面談の話です。1on1を始め、評価面談も年2回あり、キャリア面談も追加された——面談の枠だけが増えているのに、自分の手元の業務は一つも減っていない。そして増やしたはずの面談が、なぜか部下のやる気を上げていない。この記事は「1回の面談をもっとうまくやる方法」ではなく、管理職が抱える面談の総量をどう配分し、何を捨てるかを扱います。
- 上司との1on1で「モチベーションが落ちた」経験がある人は54.2%。面談は、やれば必ずプラスに働くものではない
- 管理職の87.3%はプレイング業務を抱えている。準備時間が足りないのは、個人の努力で埋まる差ではない
- やるべきは「もっとうまくやる」ではなく「全部はできないので何を捨てるか」を決めること
管理職の面談は、なぜ部下のやる気を下げるのか
面談を実施しているのに部下のやる気が上がらない、むしろ下がる。この現象は珍しいものではなく、調査上も過半数で確認されています。原因は管理職個人の話し方ではなく、準備時間が確保できない状態のまま面談の枠だけが増えているという構造にあります。
本記事でいう管理職の面談とは、一次考課の対象となる部下を持つ課長・店長クラスの管理職が、その部下と一対一で行う定期面談・評価面談・キャリア面談の総称である。上司が部下を評価する立場にあるという点が、同僚同士の対話や外部コーチとの対話と決定的に異なります。
「面談でやる気が落ちた」経験は、2人に1人を超える
ジェイックが2024年8月2日〜7日に、上司との1on1を実施している社会人400名を対象に行った「上司との1on1に関する実態調査」によれば、1on1で仕事のモチベーションが落ちた経験について、「何度もある」33.7%、「1回はある」20.5%で、合わせて54.2%が経験ありと回答しています(「ない」は45.8%)。面談を実施している人のなかでの数字です。つまり、面談を「やっていない」ことによる損失ではなく、「やっている」面談そのものが逆に振れたケースが半数を超えています。
これは管理職個人の資質の問題ではない
半数を超える現象を、個人の能力差では説明できません。特定の管理職が下手だから起きているのではなく、面談という枠だけが先に増え、それを支える時間が誰の手元にも用意されていないために起きています。研修を受けさせても、面談の直前30分が確保できなければ結果は変わりません。
なぜ管理職には面談の時間がないのか——87.3%がプレイング業務を抱えている
管理職に面談の時間がないのは、管理職がマネジメント専任ではないからです。リクルートワークス研究所の報告書「プレイングマネジャーの時代」によれば、管理職の87.3%がプレイング業務を行っていると回答しています(「いいえ」は12.7%)。同調査は、従業員100名以上の企業に勤務し一次考課対象の部下がいる課長相当の管理職を対象に2019年3月に実施され、有効回答数は2,183人です。
プレイングマネジャーとは、管理職としてのマネジメント業務と、自分自身が担当者として行う実務(プレイング業務)を同時に抱えている管理職のことである。マネジメントに使える時間は、実務の残りでしかありません。9割近くがこの状態にあるということは、「面談の時間が取れない」は例外ではなく標準だということです。
「多忙でスケジュール設定が困難」は、上司側の困りごとの上位に並ぶ
パーソル総合研究所「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」(2024年6月11日〜13日実施/従業員50名以上の企業に勤め、直近半年間で1on1を行った20〜59歳の正社員3,000名)では、上司側の困りごととして「上司が多忙でスケジュール設定が困難」が35.3%で挙がっています。この項目が「面談のやり方が分からない」とは別枠である点が重要です。やり方を学べば解決する課題と、時間の総量が足りない課題は、打ち手が違います。後者に研修を当てても解決しません。
時間がない中で面談を増やすと、何が起きるか
準備の裏づけがないまま本数だけが増えると、面談は「材料がないまま向き合う30分」になります。そして満足度の低い面談は、部下の熱意の低さと結びついています。面談は本数ではなく、満足できる中身が伴ったかどうかで効果の向きが変わります。
満足度と熱意は、はっきり連動している
ジェイック「上司との1on1に関する実態調査」(2024年8月・社会人400名)では、定期的な1on1に「非常に満足」と答えた層の67.5%が「仕事に非常に熱意がある」と回答した一方、「まったく満足ではない」と答えた層では55.6%が「まったく熱意はない」と回答しています。
| 定期的な1on1への満足度 | 対応する仕事への熱意 | 割合 |
|---|---|---|
| 非常に満足 | 仕事に非常に熱意がある | 67.5% |
| まったく満足ではない | まったく熱意はない | 55.6% |
※出典:ジェイック「上司との1on1に関する実態調査」(2024年8月2日〜7日/上司との1on1を実施している社会人400名)
この2つの数字が示しているのは、面談は「ある/ない」ではなく「満足できる/できない」で結果が分かれるということです。本数を増やす判断をするなら、増やした分の準備時間もセットで確保できるかを先に確認する必要があります。
準備がない面談が落ちる先
準備の材料を持たずに面談に入ると、話す内容は限られます。近況を聞いて終わる、進捗確認に流れる、沈黙が続く——どれも部下の側から見れば「時間を取られただけ」になります。なお、個々の面談での具体的な振る舞いのNGや、部下が話さないときの打ち手は別記事で扱っています。本記事はその手前、そもそも準備できる量まで面談を絞れているかを扱います。
何を削り、何を残すか——管理職が抱える面談の総量をどう決めるか
やるべきことは、個々の面談の質を上げる前に、自分が今どれだけの面談を抱えているかを1枚に書き出し、実行可能な総量まで削ることです。総量が実行可能な水準を超えている限り、どの面談も準備なしで走ることになります。
ステップ1:面談の棚卸しをする
種類・対象人数・頻度・1回あたりの時間を書き出し、月あたりの合計時間を出します。準備時間を面談時間と同じだけ見込むと、実態に近い数字になります。この計算をした時点で「そもそも入らない量を抱えていた」と気づくケースが少なくありません。
| 面談の種類 | 対象 | 頻度 | 1回 | 月あたり(準備込み) |
|---|---|---|---|---|
| 定期1on1 | 部下8名 | 隔週 | 30分 | 約16時間 |
| 評価面談 | 部下8名 | 年2回 | 60分 | 約2.7時間(年換算を月割) |
| 進捗確認の個別面談 | 部下8名 | 週1 | 15分 | 約16時間 |
| キャリア面談 | 部下8名 | 年1回 | 60分 | 約1.3時間(年換算を月割) |
| 合計 | — | — | — | 約36時間/月 |
※部下8名を想定した記入例です。数字はご自身の体制に置き換えてください。月160時間前後の労働時間のうち36時間を面談が占め、そのうえでプレイング業務も抱えている——この2つを並べると、準備が省略される理由が見えてきます。
ステップ2:種類を統廃合する
棚卸しをすると、同じ相手と、近い内容の面談を複数の枠で行っていることがよくあります。上の例なら、週1回15分の進捗確認と隔週30分の1on1は実質的に重なります。進捗確認をテキストの共有に移せば、月あたり16時間が空きます。統廃合の判断基準は単純で、「その枠でしか話せないことがあるか」です。
ステップ3:配分を一律から傾斜に変える
全員に同じ頻度・同じ時間を配る運用は、公平に見えて実は非効率です。総量に上限がある以上、誰に厚く配るかを決めなければ、全員に薄く配ることになります。入社直後、担当が変わった直後、成果が落ちている時期——状態が動いている相手ほど、短い間隔で確認する価値があります。なお、基準となる頻度そのものをどう決めるかは1on1の頻度をめぐるデータの記事で扱っています。
「できていない部下」に厚く配るべきか
結論から言えば、成果が落ちている部下ほど短い間隔で確認したほうがよいのですが、実際の運用は逆になりがちです。話しづらい相手との面談は後回しになり、報告が上がってくる相手とばかり時間を取ってしまう。傾斜配分は、その場の心理ではなく事前に紙の上で決めておくことをおすすめします。
ステップ4:準備を面談の外に出す
面談時間そのものより、その前の材料集めが時間を食っています。前回何を約束したか、この2週間で何が変わったか——これを毎回思い出すところから始めると、30分の面談に30分の準備がかかります。記録を残す場所を一つに決め、面談の直前ではなく日常のなかで材料が溜まる形にできると、準備の負荷は大きく下がります。
面談を減らすとき、削ってはいけないものは何か
削ってよいのは「面談でなくても伝わる情報」、削ってはいけないのは「前回の約束の回収」と「本人の状態の確認」です。この2つを落とすと、面談は近況を聞くだけの場になり、54.2%が経験している「やる気が落ちた面談」の側に落ちます。
残すもの1:前回の約束が、その後どうなったか
前回の面談で決めたことに触れずに新しい話題に入ると、部下の側には「話しても何も動かない」という学習が残ります。回収は長くなくて構いません。「前回これをやると言っていたが、どうなったか」の一往復があるだけで、面談が連続したものとして認識されます。
残すもの2:できているかではなく、どうなっているか
状態の確認とは、成果の達成度ではなく、本人が今どういう状況に置かれているかを掴むことです。業務量、周囲との関係、今後の見通し。時間がないときほど成果の確認に寄りがちですが、成果は数字を見れば分かります。数字を見ても分からない部分にこそ、面談の枠を使う価値があります。
削ってよいもの:口頭でなくても成立する情報共有
- 数字の報告:面談の場で読み上げなくても、共有された数字を双方が事前に見ておけば足ります
- 連絡事項の伝達:全員に同じ内容を個別に伝えているなら、まとめて共有したほうが速いです
- 資料を読めば分かる説明:面談の枠を説明会に使わない
- 重複した枠:同じ相手と近い内容を扱う面談が複数走っているなら統合する
多拠点・遠隔の管理職では、制約がどう変わるのか
拠点が分かれている管理職は、面談の制約がさらに強くなります。理由は2つで、移動時間が面談可能な時間を直接削ることと、日常の観察が効かないため「材料がない状態」から面談が始まることです。この状態で本数だけを増やしても、材料のない面談が増えるだけです。取るべき打ち手は、面談の外側で状態が見える仕組みを持つことにあります。
| 打ち手 | 面談の総量 | 準備の材料 | 多拠点での成立 |
|---|---|---|---|
| 面談の本数を増やす | 増える | 変わらない | 移動時間で限界が来る |
| 面談の本数を減らすだけ | 減る | 変わらない | 状態の把握が薄くなる |
| 管理職向けの研修を行う | 変わらない | 変わらない | 時間不足には効かない |
| 準備を仕組みで支える(1on1コンシェルジュ) | 絞ったまま維持できる | 面談前に自動で揃う | 現地に行かなくても状態が見える |
1on1コンシェルジュは、現場の接客音声をAIが同じ基準で採点し、スコアの推移と本人の自己評価とのギャップを面談前に用意するサービスです。「今回は何を話すか」を探すところから始めなくてよくなるため、絞った面談でも中身を落とさずに運用できます。AIに任せてよい範囲と任せてはいけない範囲については、1on1・評価面談にAIをどう使うかで線引きを整理しています。
よくある質問(FAQ)
管理職の面談は、本当に部下のやる気を下げることがあるのですか?
あります。ジェイックが2024年8月2日〜7日に、上司との1on1を実施している社会人400名に行った「上司との1on1に関する実態調査」では、1on1で仕事のモチベーションが落ちた経験が「何度もある」33.7%、「1回はある」20.5%で、合わせて54.2%が経験ありと回答しています。面談は実施すれば必ずプラスに働くものではなく、条件が整わないとマイナスにも振れる施策だと考えたほうが実態に合います。
面談の時間が取れない管理職は、面談を減らしてもよいのですか?
全員に同じ量を配るのをやめる、という意味であれば減らして構いません。リクルートワークス研究所の報告書「プレイングマネジャーの時代」(2019年3月調査・課長相当2,183人)では、管理職の87.3%がプレイング業務を行っていると回答しており、時間の不足は個人の努力で埋まる差ではありません。減らすべきは面談の本数ではなく、面談でなくても伝わる情報のやり取りです。全体の総量を先に決め、そのうえで誰に厚く配分するかを決める順序が現実的です。
面談を減らすとき、最初に削ってよいのはどれですか?
最初に削ってよいのは、口頭で伝えなくても成立する情報共有です。数字の報告、共有事項の伝達、資料を読めば分かる連絡は、面談の枠を使う必然性がありません。一方で、前回の約束がどうなったかの確認と、本人の状態の確認は削らないでください。この2つを落とすと、面談が「近況を聞くだけの場」になり、部下の側から見て時間を取られただけの時間になります。
面談の数を増やせば部下のエンゲージメントは上がりますか?
数だけでは上がりません。ジェイックの同調査では、定期的な1on1に「非常に満足」と答えた層の67.5%が「仕事に非常に熱意がある」と回答した一方、「まったく満足ではない」と答えた層では55.6%が「まったく熱意はない」と回答しています。満足度が伴わない面談は熱意の低い側と結びついているため、準備の裏づけがないまま本数だけを増やすと逆効果になり得ます。
出典
- リクルートワークス研究所「プレイングマネジャーの時代」(2019年3月調査/従業員100名以上の企業に勤務し一次考課対象の部下がいる課長相当の管理職2,183人/インターネット調査)
https://www.works-i.com/research/report/item/pmgrjobassign2020.pdf - ジェイック「上司との1on1に関する実態調査」(2024年8月2日〜7日/上司との1on1を実施している社会人400名)
https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=3484 - パーソル総合研究所「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」(2024年6月11日〜13日/従業員50名以上の企業に勤める、直近半年間で1on1を行った20〜59歳の正社員3,000名)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/1on1/