目標設定の見直しは、どれくらいの間隔が適切か——エンゲージメントから考える
期初に目標を立て、期末に評価する。その間、目標の話はほとんどしない——目標管理制度を持つ多くの職場で実際に起きているのは、この形です。では見直しは半年に一度でよいのか、四半期か、月次か。この記事では、国内の管理職調査と目標設定研究の原典をもとに、「見直しの間隔」を評価の都合ではなく、エンゲージメントの側から考えます。
- 目標の効果を決めるのは立てる間隔ではなく、振り返る間隔。Locke & Latham(2002)は「目標+フィードバック」の組み合わせが目標単独より効果的だと述べている。
- 間隔を詰めることは、目標を作り直すことではない。目標の難易度・内容は動かさず、前進の確認だけを短い間隔で入れる。
- 間隔を詰めても、目標が本人の関与なしに降ってくる限り効果は限定的。Gallupの調査では、マネージャーが目標設定に関与させていると強く同意した従業員は10人に3人にとどまる。
目標を振り返る間隔は、実際どれくらいが多いのか
国内の中間管理職を対象にした調査では、目標を振り返る頻度は「月に1回程度」32.8%が最多でした。株式会社給与アップ研究所「管理職の目標設定・管理に関する実態調査」(2023年7月28日〜31日実施、目標管理制度がある50〜300名未満の企業の課長・マネージャー相当609名)の結果です。一方で、半年に1回以下しか振り返らない層も一定数存在します。
| 目標を振り返る頻度 | 割合 |
|---|---|
| 毎日 | 7.7% |
| 週に1回程度 | 20.9% |
| 月に1回程度 | 32.8%(最多) |
| 3か月に1回程度 | 16.1% |
| 半年に1回程度 | 17.2% |
| 1年に1回程度 | 0.7% |
| 目標を振り返る機会はない | 2.0% |
出典:株式会社給与アップ研究所「管理職の目標設定・管理に関する実態調査」(2023年)
「半年に1回以下」が2割弱いる
この分布で注目すべきは、半年に1回程度17.2%と1年に1回程度0.7%を合わせた17.9%、さらに「振り返る機会はない」2.0%を加えた層です。約2割の管理職が、目標について部下と接点を持つ機会を半年以上あけていることになります。これは評価制度の期と同じ間隔であり、実質的に「目標の話をするのは、目標を立てるときと評価するときだけ」という運用です。
同じ調査では、目標を達成できた管理職は66.2%(大幅に達成9.9%+想定通り達成56.3%)でした。達成そのものは決して低くありません。問題は達成率ではなく、達成に至るまでの過程に手が入る余地がどれだけあるか、という点にあります。
期初と期末しか接点がない設計は、なぜ効きにくいのか
期初と期末しか接点がない設計は、目標設定研究の知見から見ると理論上いちばん効きにくい形です。Locke & Latham(2002)は、フィードバックが目標の効果を左右する調整変数であり、原文の表現で「目標+フィードバックの組み合わせは、目標単独よりも効果的である(the combination of goals plus feedback is more effective than goals alone)」と述べています。期初と期末しか接点がなければ、期の途中にフィードバックがほぼ存在しません。
目標の見直しとは、目標そのものを立て直すことではなく、立てた目標に対して今どこまで来ているかを本人と確認し、必要ならやり方を変える機会のことである。この定義に立つと、「見直しの間隔」の問いは「目標を書き換える頻度」ではなく「現在地を確認する頻度」の問いになります。
フィードバックがないと、人は自分の位置を知れない
Locke & Latham(2002)は、フィードバックが必要な理由を平易な例で説明しています。「1日に30本の木を切る」という目標を持っていても、何本切ったかを知らされなければ、目標に対して足りているかどうかを判断できない。そして人は、目標に届いていないと分かったときに努力を増やすか、別のやり方を試す——というのが原典の説明です。
期末にだけ結果を知らされる設計は、この「足りていないと分かってから、努力を増やすか、やり方を変える」時間を丸ごと奪います。半年後に「届かなかったね」と伝えても、本人にできることはもう残っていません。
間隔を詰めるとは「目標を作り直すこと」なのか
違います。間隔を詰めるのは前進を確認する間隔であって、目標の難易度や内容を短いサイクルで書き換えることではありません。この2つを混同すると、見直しを増やした結果として目標が形骸化します。
理由は、目標を作り直す運用にすると実務では下方修正の圧力がかかりやすいからです。進捗が芳しくない場面で「目標を見直そう」と言えば、多くの場合それは水準を下げる話になります。Locke & Latham(2002)は、目標の困難度と成果は正の線形関係にあり、「最も高い、あるいは最も困難な目標が、最も高い努力と成果を生んだ」と報告しています(目標困難度の効果量 d = .52〜.82、Locke & Latham 1990のメタ分析)。さらに、成果が頭打ちになったり下がったりするのは能力の限界に達したとき、または非常に困難な目標へのコミットメントが失われたときだけだとしています(Erez & Zidon, 1984)。期の途中で水準を安易に下げる運用は、この知見と逆の方向に働きます。
ただし注意が必要です。この効果量は課題遂行(task performance)について測られたもので、エンゲージメントを直接測ったものではありません。「目標を難しくすればエンゲージメントが上がる」とは、この研究からは言えません。難易度の話は成果の話として、エンゲージメントの話は関与と対話の話として、分けて扱うのが安全です。
短い間隔で扱うもの・扱わないもの
| 要素 | 短い間隔で扱うか | 理由 |
|---|---|---|
| 目標の水準(数値・難易度) | 扱わない | 期の途中で下げる圧力が働く。困難度と成果の関係と逆行する |
| 目標の項目そのもの | 扱わない | 前提(担当・商材・体制)が壊れたときだけ例外として扱う |
| 現在地(どこまで来たか) | 扱う | ここが見直しの中心。フィードバックが成立する最小単位 |
| やり方・手順 | 扱う | 目標を動かさない以上、変えられるのはやり方だけ |
| つまずき・必要な支援 | 扱う | 本人だけでは外せない障害を、期末より前に外す |
なお、そもそもSMARTの「A」を「達成可能」と読むこと自体が、目標設定研究の知見とずれている可能性があります。この点はSMART目標設定の「A」を取り違えていないかで扱っています。
エンゲージメントから見ると、間隔より先に決まることは何か
間隔より先に効いているのは、目標設定に本人が関与しているかどうかです。Gallup「Give Performance Reviews That Actually Inspire Employees」では、マネージャーが自分を目標設定に関与させていると強く同意した従業員は10人に3人にとどまり、その層は他の従業員に比べてエンゲージメントが高い状態にある割合が4倍とされています。
同じGallupの記事では、評価そのものへの評判も芳しくありません。受けている人事評価が改善意欲を高めたと強く同意した従業員は14%、評価が公平だと強く同意したのは29%、正確だと強く同意したのは26%。パフォーマンス管理が優れた仕事を促す形で行われていると強く同意したのは10人に2人です。評価の頻度は年1回が48%、年1回未満が26%でした。
この数値の並びが示すのは、間隔を詰めても、目標が上から降ってくる限り効果は限定的だということです。本人が納得していない目標について確認の回数だけ増やせば、それは進捗報告の場が増えるだけになります。なおGallupの数値は米国を中心とした調査に基づくもので、日本企業にそのまま当てはまるとは限りません。
目標が「役職・等級」で決まっている場合
国内でも同じ論点は観察できます。給与アップ研究所の調査(2023年)では、部下の目標を役職・等級によって決定していると答えた管理職が30.7%いました。役職・等級で目標が決まるということは、本人の関与が入る余地がその分だけ狭いということです。この状態で確認の間隔だけを詰めても、対話の中身は「決められた数字に対して、いま何%か」に収束していきます。
間隔を設計する前に確認したいのは、次の1点です。期初の目標設定の場に、本人の言葉がどれだけ入っているか。入っていないなら、間隔より先に直すべきはそちらです。
目標設定の見直しは、どれくらいの間隔で設計すればよいか
実務的な設計は、3つの間隔を分けることです。①目標そのものの設定、②進捗の確認、③評価。この3つを同じ間隔に揃えないことが要点です。多くの職場で「見直しが半年に1回」になっているのは、3つが評価制度の期に一括で紐づいているためです。
| 何を | 間隔の考え方 | そこで扱うこと | 扱わないこと |
|---|---|---|---|
| ①目標の設定 | 既存の人事制度の期に合わせる(半期・通期) | 難易度・内容・本人の関与 | 細かい進捗の詰め |
| ②進捗の確認 | ①より短く。国内の最頻値は月1回(32.8%) | 現在地・やり方・必要な支援 | 目標の下方修正 |
| ③評価 | 制度どおり(半期・通期) | 結果の確定と、その理由の説明 | 本人がその場で初めて聞く指摘 |
②と③を同じ場に統合しない
最も避けたいのは、進捗の確認(②)と評価(③)を同じ場・同じ間隔に統合してしまうことです。統合すると、進捗の確認が評価の予告として受け取られ、本人はうまくいっていない部分を出しにくくなります。やり方を変えるための場と、結果を確定する場は、性格が違います。
②の場を何分・何回にするかという運用の詳細は、面談の設計そのものの話になります。頻度の根拠については なぜ「週1回」なのか——1on1の頻度をめぐる、データの答え を、結果を確定する場の組み立てについては 評価面談の進め方 をご覧ください。この記事では、あくまで目標に対する見直しの間隔に絞ります。
多拠点では、なぜ間隔を詰めにくいのか
多拠点・遠隔の現場で間隔を詰められないボトルネックは、マネージャーの時間ではなく「確認の材料」です。同じ場所で働いていれば、日々の様子そのものが現在地の材料になります。拠点が離れていると、その材料が本人の自己申告と、売上などの結果数値だけに痩せてしまいます。
派遣・委託の現場ではこれがさらに厳しくなります。スタッフの就業先はクライアント企業の店頭やイベント会場で、マネージャーは巡回か遠隔でしか関われません。目標が「客単価を上げる」「提案率を上げる」といった行動に関わるものであるほど、結果数値が動くまでは現在地が見えず、動いたときにはもう期末が近い、という順番になります。
この状態で間隔だけ詰めても、「どうですか」「頑張ってます」の往復が増えるだけです。間隔を詰めることに意味を持たせるには、結果が出る前の段階で、行動の側に材料を持つ必要があります。
1on1コンシェルジュは、店頭・イベントでの実際の接客音声をAIが同じ基準で採点し、拠点をまたいで比較できる形にするサービスです。売上が動く前の段階で、接客のどの部分が変わったか/変わっていないかを材料として持てるため、「現在地の確認」を短い間隔で回しやすくなります。目標そのものを書き換えることなく、やり方の話に時間を使えるようにするための道具、という位置づけです。
よくある質問(FAQ)
目標の見直しは四半期ごとが適切ですか?
一律に四半期が正しいとは言えません。株式会社給与アップ研究所「管理職の目標設定・管理に関する実態調査」(2023年7月28日〜31日実施・中間管理職609名)では、目標を振り返る頻度は月に1回程度32.8%が最多で、3か月に1回程度は16.1%でした。実務的には、目標そのものを設定し直す間隔と、進捗を確認する間隔を分けるのが現実的です。目標の設定は既存の評価制度の期(半期・通期)に合わせ、進捗の確認だけを数週間から月1回に置きます。
見直しの間隔を短くすると、目標がころころ変わりませんか?
変わってしまうとしたら、見直しの中身を取り違えています。間隔を詰めるのは前進の確認であって、目標の水準や内容を書き換えることではありません。Locke & Latham(2002)は、目標の困難度と成果が正の線形関係にあり、成果が頭打ちになったり下がったりするのは能力の限界に達したときか、非常に困難な目標へのコミットメントが失われたときだけだと述べています。期の途中で水準を下げる運用は、この知見と逆の方向に働きます。
目標の見直し間隔を詰めれば、エンゲージメントは上がりますか?
間隔だけで決まるとは言えません。Gallup「Give Performance Reviews That Actually Inspire Employees」では、マネージャーが目標設定に自分を関与させていると強く同意した従業員は10人に3人にとどまり、その層は他の従業員に比べてエンゲージメントが高い状態にある割合が4倍とされています。目標が本人の関与なしに決まっている状態では、確認の回数を増やしても進捗報告の場が増えるだけになりがちです。なおこの数値は米国を中心とした調査に基づくもので、日本企業にそのまま当てはまるとは限りません。
目標を難しくすれば、エンゲージメントは上がりますか?
そうは言えません。Locke & Latham(2002)が示した目標困難度の効果量(d = .52〜.82、Locke & Latham 1990のメタ分析)は課題遂行(task performance)に関するもので、エンゲージメントを直接測ったものではありません。目標の困難度が成果と結びつくという知見を、そのままエンゲージメントに読み替えることはできません。難易度の設定は成果の話として、エンゲージメントは関与と対話の話として、分けて扱うのが安全です。
この記事で使った調査の範囲と限界
- 給与アップ研究所の調査は、対象が限定されています。目標管理制度がある50〜300名未満の企業の中間管理職609名が対象で、全企業規模の分布ではありません。大企業や、目標管理制度を持たない組織には当てはまらない可能性があります。またインターネット調査であり、回答は管理職本人の自己申告です。
- Gallupの数値は米国を中心とした調査です。評価制度の設計も、目標設定への関与のしかたも国によって異なるため、日本企業にそのまま適用できるとは限りません。傾向を読む材料として扱っています。
- Locke & Lathamの効果量は、エンゲージメントの指標ではありません。d = .52〜.82 は課題遂行(task performance)について測られたもので、エンゲージメントや定着を直接測ったものではありません。この記事では「目標+フィードバックが目標単独より効果的」という定性的な知見を軸に用い、困難度とエンゲージメントを結びつける主張はしていません。
出典
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey. American Psychologist, 57, 705–717. 全文PDF(本記事の記述は原文PDFから直接照合)
- 株式会社給与アップ研究所「管理職の目標設定・管理に関する実態調査」(2023年7月28日〜31日実施、目標管理制度がある50〜300名未満の企業の中間管理職609名)調査リリース
- Gallup「Give Performance Reviews That Actually Inspire Employees」記事