入る人より、辞める人が多い——数字で読む販売業界の離職超過
募集をかけても人が集まらない。採用できても、その間に別の誰かが辞めていく。この感覚は、拠点の努力不足ではなく業界全体で起きている人の純減を反映しています。公的統計でどこまで確認できるのかを、まず数字で押さえます。
卸売業・小売業は「離職超過」になっている
厚生労働省の「令和6年 雇用動向調査」によれば、令和6年(2024年)1年間で卸売業・小売業に入職した人は138万3,600人、離職した人は142万7,000人でした。差し引き4万3,400人、出ていった人のほうが多いことになります。
| 区分 | 入職者数 | 離職者数 | 入職率 | 離職率 | 入職超過率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 産業計 | 7,473.7千人 | 7,195.3千人 | 14.8% | 14.2% | +0.6pt |
| 卸売業,小売業 | 1,383.6千人 | 1,427.0千人 | 14.7% | 15.1% | −0.4pt |
出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」表4-1・表4-2(就業形態計)。入職超過率は入職率から離職率を引いた値。
注目したいのは産業計がプラス0.6ポイントであることです。日本全体では、この1年で働く人は増えています。そのなかで卸売業・小売業だけが逆を向いている。「どこも人手不足だから仕方ない」という説明は、少なくともこの数字とは合いません。
さらに、入職者数・離職者数はどちらも卸売業・小売業が全産業で最も多い数字です。つまりこの業界は、人の出入りが最も激しい市場でありながら、その収支がマイナスになっている状態にあります。
正社員もパートも、どちらも離職超過
「入れ替わりが激しいのはパート・アルバイトだから」と受け止められがちですが、就業形態を分けても向きは変わりません。
| 卸売業,小売業 | 入職率 | 離職率 | 入職超過率 |
|---|---|---|---|
| 一般労働者 | 10.3% | 10.7% | −0.4pt |
| パートタイム労働者 | 20.7% | 21.3% | −0.6pt |
出典:同上 表4-2。
一般労働者でもマイナスです。短期の入れ替わりの話ではなく、腰を据えて働くはずの層でも人が減っています。
率の小ささに、だまされない
令和6年に離職超過となった産業は、卸売業・小売業のほかにも複数あります。
| 産業 | 入職率 | 離職率 | 入職超過率 |
|---|---|---|---|
| 鉱業,採石業,砂利採取業 | 6.9% | 9.1% | −2.2pt |
| 複合サービス事業 | 6.5% | 7.8% | −1.3pt |
| 不動産業,物品賃貸業 | 12.5% | 13.5% | −1.0pt |
| 製造業 | 8.9% | 9.6% | −0.7pt |
| 卸売業,小売業 | 14.7% | 15.1% | −0.4pt |
| 運輸業,郵便業 | 10.0% | 10.2% | −0.2pt |
出典:同上 表4-2(就業形態計)。入職超過率がマイナスの産業を抜粋。
率で見ると卸売業・小売業のマイナス0.4ポイントは小さいほうです。しかし母数が全産業で最大であるため、実数では4万3,400人という最も重い純減になります。率の小ささは、痛みの小ささを意味しません。
「採用で埋める」という前提が崩れている
1人辞めたら1人採る。この運用は、業界全体に人が流入しているあいだは成り立ちます。しかし業界そのものが純減している局面では、採用は同業他社との奪い合いになります。条件を競り上げても、隣の店舗から移ってきた人が、次はまた別の店舗へ移っていく。
採用を止めるべきという話ではありません。ただ、採用の努力と同じだけの重みで「今いる人が辞めない状態」に投資しないと、収支は改善しないということです。1人の離職で実際にいくら失っているかは、あなたの拠点の離職は「運」ではなく「見える化」で防げるで計算方法を整理しています。
辞める理由は、拠点で手の届く範囲にある
同じ調査で、転職入職者が前職を辞めた理由も集計されています。個人的理由を除くと、女性は「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%。男性は「定年・契約期間の満了」14.1%、次いで「給料等収入が少なかった」10.1%でした。
前年からの上昇幅が最も大きかったのは、男性では「会社の将来が不安だった」プラス2.2ポイント、女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」プラス1.7ポイントです。
※これは全産業の転職入職者を対象とした数字で、卸売業・小売業に限った内訳ではありません。業界別の離職理由は同調査では公表されていないため、傾向として参照しています。
給与水準や勤務シフトの設計は、拠点だけで動かせるものではありません。一方で人間関係と、将来が見えるかどうかは、日々のマネジメントの領域です。ここは拠点で手が届きます。
拠点でできることは、3つに絞られる
- 同じ基準で測る:拠点や上司によって評価がブレない共通のものさしを持つ(→ 接客品質の可視化とは?)。
- 継続して記録する:点ではなく線で見る。変化の起点を特定できる状態にする(→ 「辞めそう」を数字で掴めれば、引き止めは間に合う)。
- 変化が起きたら動く:気づいた人が判断するのではなく、基準と手順にする(→ 離職予兆の早期察知マニュアル)。
業界の数字は個々の拠点では変えられません。変えられるのは、自分の拠点が業界平均のどちら側にいるかだけです。そしてその差は、同じ会社の拠点間でも実際に生まれています(→ 離職率が高い拠点と低い拠点、決定的に違う「たった1つのこと」)。
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よくある質問(FAQ)
販売業界は本当に入職者より離職者のほうが多いのですか?
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」では、卸売業・小売業の入職者数は1,383.6千人、離職者数は1,427.0千人で、離職が入職を43.4千人上回っています。入職率14.7%に対し離職率15.1%、入職超過率はマイナス0.4ポイントです。産業計は入職率14.8%・離職率14.2%で入職超過率プラス0.6ポイントなので、全体では人が増えている中で、この区分は減っていることになります。
統計の「卸売業,小売業」は店頭販売と同じ意味ですか?
同じではありません。雇用動向調査の産業区分であり、卸売業も含まれるため、店頭・イベントの販売職だけを取り出した数字ではありません。販売現場の実感を裏づける最も近い公的データとして参照できますが、職種別の統計ではない点は区別して読む必要があります。
離職超過が続くなら、採用を強化すべきではないですか?
業界全体が純減している状況では、採用の強化は同業他社との奪い合いになりやすく、条件面の競り上がりが続きます。入職者数・離職者数がともに全産業で最も多い=人の出入りが最も激しい市場であることも踏まえると、採る力だけでなく、在籍している人が辞めない状態をつくるほうが再現性があります。
拠点単位では何から始めるのが現実的ですか?
スタッフの接客の質を同じ基準で継続的に記録し、下がった人に早く声をかける仕組みをつくることです。離職理由の上位にある労働条件や人間関係は、制度と日々のマネジメントの領域にあります。変化に気づける状態がなければ、対話のきっかけそのものが生まれません。
出典
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」(令和7年8月26日公表)
表4-1 産業、就業形態別入職者・離職者状況/表4-2 産業、就業形態別入職率・離職率・入職超過率: 産業別の入職と離職(PDF) - 同「令和6年 雇用動向調査結果の概況」表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合: 結果の概況(PDF)
- 調査結果一覧:令和6年 雇用動向調査結果の概要(厚生労働省)
- 注記:本文中の「4万3,400人」は、上記の入職者数1,383.6千人と離職者数1,427.0千人の差として算出した値です。離職理由の数値は全産業の転職入職者を対象としたもので、卸売業・小売業に限定した内訳ではありません。