面談では「大丈夫です」。なのに辞める部下を、どう掴むか
先月の面談では「特に問題ないです」と言っていた。なのに今月、退職届が出てくる。——嘘をつかれたわけではありません。あの面談には、本音が出る条件がひとつも揃っていなかった。それだけです。
「大丈夫です」は、隠しているのではなく答えようがない
「最近どう?」——この質問に、正しく答えられる人はほとんどいません。仕事のこと?体調のこと?人間関係?範囲が無限で、何を話せば求められている答えなのか分からない。人は答えの範囲が分からないとき、最も無難な選択肢を選びます。それが「大丈夫です」です。
さらに、不満を口にすれば評価が下がるかもしれない、面倒な人だと思われるかもしれないという不安があれば、沈黙はいっそう合理的になります。つまり「大丈夫です」は誠実さの欠如ではなく、場の設計に対する正しい反応です。
本音が出ないのは相手の性格の問題ではない。質問の設計の問題である。
本音が出る面談の3条件
- 先に事実を置く:抽象的な問いではなく、具体的な変化から入る。答える範囲が限定されると、人は答えられる。
- 人ではなく行動を話題にする:「やる気ある?」ではなく「この場面の聞き方、変えた?」。人格に向いた問いは防御を生む。
- 評価の場ではなく確認の場にする:話しても不利にならないと分かって初めて口が開く(→ 心理的安全性と“事実ベース”の対話)。
そのまま使える、言い換えの型
| ありがちな質問 | 返ってくる答え | 言い換え |
|---|---|---|
| 最近どう? | 大丈夫です | この3週間、ヒアリングの点だけ下がってる。何か理由がありそう? |
| 困ってることある? | 特にないです | 先週の接客で、やりにくかった場面ってどこ? |
| やる気ある? | あります(防御) | いまの仕事で、一番手応えがあるのはどの部分? |
| 不満はない? | ないです | もし1つだけ変えられるとしたら、何を変えたい? |
| この先どうしたい? | まだ考えてないです | 半年後、どんな接客ができていたら「成長した」と思える? |
共通しているのは、答えの範囲を狭め、事実か具体的な場面に紐づけていることです。抽象度を下げるだけで、返ってくる情報量は大きく変わります。
事実を持たない面談は、印象論にしかならない
言い換えの型を使おうとすると、ひとつ壁にぶつかります。「この3週間、ヒアリングの点だけ下がってる」と言うためには、その事実が手元になければならないということです。
多拠点・遠隔の環境では、部下の接客を毎日見ることはできません。だから面談は「たしか最近元気がない気がする」という印象からしか始められず、結果として抽象的な問いに戻ってしまいます。
接客音声をAIで客観採点しておくと、面談の前に「どの項目が」「いつから」「どれだけ」変わったかが分かります。面談は詰問ではなく、一緒に原因を探す時間になります。どの変化がいつ現れるかは 辞めるサインの時系列チェックリスト にまとめました。
やってはいけない2つの質問
- 「辞めようと思ってる?」:まだ迷っている段階でも、聞かれた瞬間に選択肢として意識され、意思決定を早めます。
- 「みんなはできてるよ」:他人との比較は、改善ではなく孤立を生みます。比較するなら本人の過去とだけ比較してください(→ プロセス承認の科学)。
面談の最後に必ずやること
次の1週間で試すことを1つだけ、本人に選んでもらいます。小さくていい。そして次の面談で、その1つについて必ず触れる。言ったことが覚えられているという体験が、次の面談で本音が出るかどうかを決めます。
指摘の伝え方そのものについては “効く”フィードバックの条件 もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
なぜ1on1で「大丈夫です」しか返ってこないのですか?
部下が隠しているからではなく、質問が抽象的すぎて答えようがないからです。「最近どう?」には無数の答え方があり、何を話せば正解か分からないとき、人は最も無難な「大丈夫です」を選びます。加えて、不満を言えば評価に響くかもしれないという不安があれば、沈黙はさらに合理的な選択になります。
本音が出る面談にするには何を変えればよいですか?
質問の前に事実を置くことです。「この3週間、ヒアリングの項目だけスコアが下がっている」と具体的な変化を示してから「何か理由がありそう?」と聞けば、答える範囲が限定され、本人も答えやすくなります。抽象的な問いは抽象的な答えしか返しません。
面談の頻度はどのくらいが適切ですか?
月1回の長い面談より、隔週15分の短い面談のほうが機能します。離職の予兆は数週間単位で進むため、月1回では変化を2回に1回しか捉えられません。短く高頻度にし、変化が出たときだけ深く掘るのが現実的です。
面談で聞いてはいけないことはありますか?
「辞めようと思ってる?」と直接聞くことは避けます。まだ迷っている段階でも、聞かれた瞬間に選択肢として意識され、意思決定を早めてしまうことがあります。また「やる気あるの?」のように人格や意欲に向けた問いも、防御を生んで本音を遠ざけます。話題は常に具体的な行動に向けてください。