その1人を採り直すのに、いくらかかるか——販売の採用相場を数字で確認する
1人辞めたら1人採る。この運用を続けるかどうかを判断するには、「採る」側の相場を知っている必要があります。自社で失っている額の数え方は別の記事で整理しました。ここでは市場の側の数字を、公的統計と調査機関の発表から並べます。
販売職は、全職業平均の1.8倍採りにくい
厚生労働省「一般職業紹介状況」の令和8年5月分から、職業別の求人倍率を抜き出します。
| 職業 | 有効求人倍率 | 新規求人倍率 |
|---|---|---|
| 職業計 | 0.99倍 | 1.77倍 |
| 販売従事者 | 1.78倍 | 3.29倍 |
| うち商品販売従事者 | 1.65倍 | 3.27倍 |
| サービス職業従事者 | 2.49倍 | 4.09倍 |
| うち接客・給仕職業従事者 | 2.28倍 | 3.72倍 |
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年5月分)」参考統計表7-1(常用・パート含む、全国計)。これらは職業別の実数であり、報道等で使われる全体の有効求人倍率1.17倍(季節調整値)とは系列が異なるため、直接の比較はできません。
職業計が0.99倍、つまり求職者1人に対して求人が1件を切っているのに対し、販売従事者は1.78倍。求職者1人を、1.78件の求人が取り合っている状態です。新規求人倍率で見ると3.29倍まで開きます。
求人を出しても、1割しか埋まらない
同じ統計の令和7年度平均で、対新規充足率は11.5%でした。新たに出した求人のうち、実際に人が決まったのは1割程度ということになります。
事業所側から見た数字もあります。厚生労働省「労働経済動向調査」の令和7年5月調査では、未充足求人がある事業所は調査産業計で58%、卸売業・小売業で55%、欠員率は卸売業・小売業で2.4%でした。
※「未充足求人の有無・欠員率」および「中途採用の実績」の調査項目は、令和7年5月調査をもって終了しています。ここに挙げたのが最終の公表値であり、以降の推移は同調査では追えません。
1人採るのに、いくら払っているか
就職みらい研究所(リクルート)の「就職白書2020」に、1人あたりの採用コストの実額があります。
| 区分 | 1人あたり採用コスト(2019年度実績) |
|---|---|
| 新卒採用 | 93.6万円 |
| 中途採用 | 103.3万円 |
出典:就職みらい研究所「就職白書2020 -就職活動・採用活動の振り返り編-」P10。
ここは正直に書いておきます。この項目は2021年版以降の就職白書には掲載されておらず、公的機関にも代替となる統計がありません。つまり、調査機関ベースで確認できる直近の実額が2019年度のものだということです。6年前の数字であり、現在の水準を示すものとして読むことはできません。
それでも意味はあります。求人倍率も充足率も当時より厳しい方向に動いていないかを見たうえで、「少なくともこの水準はかかる」という下限の目安としては使えるからです。上限を語る根拠がない、という点だけ明確にしておきます。
採用経路は、いまも広告と縁故
お金がどこに出ていくかは、入職経路から推測できます。厚生労働省「雇用動向調査」令和6年の入職経路別入職者数はこうなっています。
| 入職経路 | 入職者数 |
|---|---|
| 入職者計 | 7,473.7千人 |
| 広告 | 2,477.5千人 |
| 縁故 | 1,509.0千人 |
| その他(職業紹介機関等) | 1,066.0千人 |
| 職業安定所(ハローワーク) | 984.9千人 |
| 民営職業紹介所 | 569.9千人 |
| 学校 | 453.7千人 |
出典:厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」第7表 入職経路別入職者数。原表に構成比の記載はないため実数のみを掲載しています。
最も多いのは広告、次いで縁故です。広告は掲載した時点で費用が出ていき、決まらなくても戻ってきません。民営職業紹介所(人材紹介)は成功報酬型が中心ですが、決まれば年収連動の手数料が発生します。採用は、成果が出ても出なくても現金が出ていく活動だということです。
人手不足は緩んでいる。ただし販売と人材サービスは別
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」の2026年4月調査では、正社員の不足を感じている企業は50.6%(前年同月51.4%)、非正社員は28.3%(同30.0%)と、いずれも前年から低下しました。全体としては緩和方向です。
ただし業種別では動きが分かれています。非正社員の不足感を見ると、飲食店は59.1%で前年から6.2ポイント低下した一方、飲食料品小売は50.0%で前年から5.6ポイント上昇しています。そして最も高いのは人材派遣・紹介の60.0%で、全業種で唯一の6割台でした。
全体の緩和を自社の状況と同じだと受け取ると、判断を誤ります。販売の現場と、人を送り出す事業では、逆の動きが出ています。
この数字を、どう使うか
市場の数字だけでは判断できません。ここに自社の数字を掛け合わせて、はじめて比較になります。
- 採り直しの実額:自社の求人広告費・紹介手数料の年間実績を、決まった人数で割る。市場の相場(下限の目安として103.3万円)と比べる。
- 埋まらない期間の損失:欠員が埋まるまでの売上機会と、既存スタッフの負荷。離職1人あたりの損失の数え方で費目を整理しています。
- 1人踏みとどまる価値:上の2つの合計が、辞めさせないことに払える金額の上限になります。
そのうえで、業界そのものが人の純減局面にあることも踏まえる必要があります(→ 入る人より、辞める人が多い——数字で読む販売業界の離職超過)。倍率1.78倍の市場で他社と取り合うか、いま在籍している人が辞めない状態をつくるか。後者のほうが、少なくとも相手のいない勝負です。
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よくある質問(FAQ)
販売職はどのくらい採用が難しいのですか?
厚生労働省「一般職業紹介状況」令和8年5月分の職業別データ(常用・パート含む、実数)では、職業計の有効求人倍率0.99倍に対し、販売従事者は1.78倍、うち商品販売従事者は1.65倍です。サービス職業従事者は2.49倍、接客・給仕職業従事者は2.28倍でした。全職業の平均と比べると、販売は約1.8倍の求人倍率になっています。
求人を出すと、どのくらい埋まるものなのですか?
同統計の令和7年度平均で、対新規充足率は11.5%でした。新規に出した求人のうち充足したのは1割程度ということになります。また厚生労働省「労働経済動向調査」令和7年5月調査では、未充足求人がある事業所は調査産業計で58%、卸売業・小売業で55%でした。なおこの調査項目は令和7年5月調査をもって終了しており、これが最終の公表値です。
採用1人あたりのコストはいくらですか?
就職みらい研究所「就職白書2020」によれば、2019年度実績で新卒採用1人あたり平均93.6万円、中途採用103.3万円でした。ただしこの調査項目は2021年版以降掲載されておらず、公的機関にも代替統計がないため、これが確認できる直近の実額になります。6年前の数字である点は割り引いて読む必要があります。
人手不足はもう緩和しているのではないですか?
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2026年4月では、正社員の不足を感じる企業は50.6%、非正社員は28.3%で、いずれも前年同月から低下しました。ただし業種によって動きが異なり、飲食料品小売の非正社員は50.0%と前年から5.6ポイント上昇しています。人材派遣・紹介は非正社員60.0%で全業種中1位でした。全体は緩和方向でも、販売・人材サービスの現場では逆の動きが出ています。
出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年5月分)」参考統計表7-1(職業別 有効求人倍率・新規求人倍率): 一般職業紹介状況(厚生労働省)
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)」(令和7年度平均の対新規充足率11.5%): 令和7年度分の職業安定業務統計(厚生労働省)
- 厚生労働省「労働経済動向調査(令和7年5月)の概況」(未充足求人がある事業所の割合・欠員率): 労働経済動向調査(PDF・厚生労働省)
- 就職みらい研究所「就職白書2020 -就職活動・採用活動の振り返り編-」(2019年度実績の1人あたり採用コスト): 就職白書2020(就職みらい研究所)
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」第7表 入職経路別入職者数: 雇用動向調査(厚生労働省)
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表、有効回答10,538社): 帝国データバンク
- 注記:職業別の求人倍率は実数であり、報道等で示される全体の有効求人倍率(季節調整値)とは系列が異なります。入職経路の構成比は原表に記載がないため実数のみを掲載しています。採用コストの調査項目は2021年版以降の就職白書には掲載されていません。